症例
ガングリオン(結節腫)
■症状
ガングリオンは良性の腫瘍であり、関節包や腱鞘の変性により起こる。中にゼリー状の物質の詰まった腫瘤で、典型的なものは手関節背側に生じやすい。他にも靭帯や腱鞘、神経内、半月板のほか骨内にも発生し、ほぼ全身にできる。
通常は無症状なことが多いが、軽度の圧痛や疼痛を伴うこともあり、神経の側にできると、神経を圧迫し、痺れや痛み、運動麻痺を伴う。神経を圧迫している場合は、腫脹部を押すと圧痛、痺れが出現する。使いすぎで腫瘤が大きくなることがある。硬さは、硬いものからやわらかいものまでさまざまである。
若い女性に多く、男性の約三倍も発生率が高く、再発しやすい。
■原因
原因は不明であるが、関節包、靭帯周辺の滑膜細胞、線維芽細胞などが繰り返し刺激を受けた結果、粘液を産生し小嚢胞を形成、さらにそれらが集合してできるという説もある。
したがって、この袋のガングリオンは関節や腱鞘につながっており、関節や腱鞘から送り込まれた関節液や滑液が濃縮され、ゼリー状となって腫瘤の袋の中に詰まっていると考えられている。大きさは米粒の小さいものから、ピンポン玉くらいの大きさのものもある。
また、ガングリオンは皮膚のすぐ下にできることが多いが、まれに、身体の奥のほうにガングリオンができ、一見姿が見えないガングリオンをオカルトガングリオンと言う。レントゲンには写らず、診断はエコーが有用であり、穿刺して内容物を確認し、ゼリー状であればガングリオンと確定する。
■治療
ほとんどが、保存的療法で改善する。代表的な治療は、穿刺治療と除去手術と呼ばれる方法がある。保存的療法としては、ガングリオンに注射針を刺して、注射器で内容物を排出する。
また、ガングリオンに力を加えて押しつぶす治療法もあるが、自分で押しつぶしたり対処すると、激痛をともなったり、骨や神経に悪影響を及ぼす恐れがあるため、無理に潰すことは避ける。
それでも繰り返し内容物が溜まるような場合はガングリオン自体を摘出する除去手術を行うが、手術を行っても再発する場合もある。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
短母指伸筋腱と長母指外転筋が手首の背側にある手背第一コンパートメントを通るところ(橈骨茎状突起部)に生じる腱鞘炎。
■症状
腱鞘の部分で腱の動きがスムーズでなくなり、手首の母指側が痛み、橈骨茎状突起部に腫れと圧痛がでる。母指を広げたり、動かしたりすると、この場所に強い疼痛が走る。
フィンケルシュタインテスト陽性。
手関節の近位5センチ程の部位で長母指外転筋と短母指伸筋が長橈側手根伸筋と短橈側手根伸筋を乗り越えるところがあり、その部分をインターセクションと言う。
インターセクションの場所で動作時のギーギーとなる音や疼痛がでる症状をインターセクションシンドロームと言い、ド・ケルバン病と併発していることがある。
■原因
妊娠時、産後や更年期の女性に起こることが多く、ホルモンバランスの変化と関係があると言われている。
スポーツマンや、指をよく使う仕事の人にも多い。
■治療
- 局所の安静。
- 腱鞘内に局麻剤入りステロイド注射をする。
- 手術療法(腱鞘を切離し、腱を開放する)
TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)
尺骨の手関節部分の突起の周囲にTFCC(三角繊維軟骨複合体)と呼ばれるハンモック状の組織があり、手根骨と尺骨の間にかかる負荷を均等にするクッションとしての作用と、遠位橈尺関節に安定性を与える作用がある。このTFCCが損傷を受け、手首に痛みが出る疾患をTFCC損傷という。TFCCを構成するものは、尺骨頭と尺側手根骨の間にある。
①尺骨手根半月
②関節円板
③尺骨三角骨靭帯
④尺骨月状骨靭帯
⑤掌側橈尺靭帯
⑥背側橈尺靭帯
⑦尺側側副靭帯
⑧背側橈骨三角骨靭帯
などの複合体のことで、日本語では三角線維軟骨複合体という。
■症状
尺骨頭と手根骨の間に圧痛、腫脹、発赤、熱感があり、回内、回外、尺屈時に手関節の尺側部に痛みを訴え、重いものを持ち上げる動作で痛みが出現する。安静時の痛みはみられないことが多い。重度の場合、遠位橈尺関節に不安定性が出現する。
尺屈回外テスト陽性。
検査で異常が出ないことが多く、ほとんどの場合はレントゲンに問題はない。MRI、関節造影検査が確定診断となるが、MRIはTFCC自体がそれほど大きなものでない上にMRIのスライス幅の限界が2~3mm程度のため、スライスによっては判断できない。関節造影検査では、損傷部で造影剤の漏れを認めることができる。
■原因
TFCC損傷は手を突いて倒れたり、手が過度に回内されて受傷することが多い。野球やテニスをしている人に多く起こる。また、加齢変性に伴い損傷することもある。稀に、尺骨の相対長が橈骨よりも長い例で発生することがあるが、同じ長さおよび尺骨が短い例でも生じる。尺骨が長い場合は、「尺骨突き上げ症候群」といい、仕事や生活上で、手関節を小指側へ動かすことが多い人に発生しやすい。
■治療
ほとんどが保存治療で回復できる。外傷性のものには3~4週間の外固定を行い、局所の安静を保つが、症状の強さによって固定の期間は異なってくる。しかし、固定は長くても三ヶ月が限度である。この時期は負担のかかるスポーツや作業は避けた方が望ましい。
慢性的な使いすぎ、変性によるものには、付け外しが簡単な装具を装着したりし、スポーツなどを行うときはある程度手首の自由がきくテーピングで固定する。温熱療法や運動療法も効果的である。
まれに保存療法でも改善されない場合は関節鏡下での手術を行い、尺骨突き上げ症候群の場合は、尺骨短縮術等の手術を行う。