症例
ヘバーデン結節
更年期をすぎた女性に多発する手指のDIP関節の変形性関節症である。
■症状
DIP関節の肥大、変形を生じ、両側性で、かつ、多発性に出現し、同部の腫脹、疼痛を訴える。主として末節骨基底部の背側が隆起突出する。
物を握ったり、つまんだりする動作で痛みが出現し、患部が何かにぶつかったりすると、激しい痛みが出現する。慢性関節リウマチではDIP関節を侵すことはまれである。
結節が起こりやすい順番として、示指が一番多く、中指、小指、環指、母指の順に多いと言われている。
女性の罹患頻度が男性より10倍ほど高い。
急性期に発赤などの炎症症状を伴う場合や、粘液嚢腫(ミューカシスト)を伴う場合がある。この粘液嚢腫の中は、ガングリオンと同じ成分であり、ガングリオンの一種といわれている。慢性期ではDIP関節の屈曲変形が出現する。
手指PIP関節の変形性関節症はブシャール結節といい、ヘバーデン結節の20%に本症を合併する。
X線写真で関節の隙間が狭くなったり、骨棘があったり、関節が壊れていれば、ヘバーデン結節と診断できる。血液検査では異常を認めない。
■原因
変形が起こる原因は不明だが、更年期を過ぎた女性のホルモンの変調も関係していると言われている。
手をよく使う人になりやすい傾向がある。
■治療と予防
保存的療法として、局所の安静、局所のテーピング。慢性期は患部を冷やさず、温熱療法や運動療法を行う。
ばね指(弾撥指)
■症状
成人例では中手指節間〈MP〉関節掌側に腫瘤を触れ、圧痛があり、指の自動運動、他動運動でバネ現象を認め同時に痛みがある。軽度の場合は手指のこわばりを訴え、重症例では安静時にも痛みがあったり、発赤があったり、関節の運動ができない状態になることもある。(locked thumb)
特に朝が顕著。例えば指の屈曲が困難になったり、指をのばそうとすると引っかかりを感じたり、ひどくなると指が曲がったまま伸びないなどのバネ現象が起こる。
どの指にもおこる可能性はあるが、 特に右の母指がもっとも多く、次に中指、環指(薬指)に多く見られる。
小児では、1~2歳が発症しやすく、母指中手指節間(MP)関節掌側に軟骨のような硬い腫瘤を触れるが、痛み、圧痛はない。
親指での発生がほとんどで、母指指節間(IP)関節が曲がったままで、他動的に伸ばすとバネ現象がみられる。また指節間関節がロックされた状態のこともある。8割ぐらいの確率で6才ぐらいまでに症状が無くなる。よほどのことがない限り、手術の必要性もない。
■原因
屈筋腱と靭帯性腱鞘との間に炎症(腱鞘炎)が起こると刺激のために腱が厚く硬くなったり、腱鞘が厚くなって、結果として腱の動きが悪くなる。
手の酷使でも発生するが、主に妊娠時、産後や更年期の女性が女性ホルモンバランスが乱れることにより、起こることが多い。また、関節リウマチ、糖尿病、透析が原因で発生することもある。
小児の場合は、先天性で靭帯性腱鞘の入り口で長母指屈筋腱がこぶのように大きくなってバネ現象が引き起こされると考えられている。
■治療
できるだけ、患部の安静を保ち刺激を少なくし、症状によっては、固定材料を当てて固定することもある。
ばね指は、一度なってしまうと完治するまでに長い時間がかかることが多い。手指は、どうしても生活しながらの治療になるため、安静にしにくく治りにくい。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
■症状
物をつかんで持ち上げる動作やタオルをしぼる動作をすると、肘の外側から前腕にかけて痛みが出現する。多くの場合、安静時の痛みはないが症状が強いと安静時の痛みもある。外側上顆部の圧痛。レントゲンでは異常がないことが多いが、進行すると外側上顆部の骨の変形を生じる。
テニスのバックハンドにより発症することが多いのでテニス肘と呼ばれているが、実際には労働による発症が多い。
30代から50代の女性に多い。30代からテニスを始めた人に多い。
- トムゼンテスト陽性
- チェアーテスト陽性
- 中指伸展テスト陽性
■原因
短橈側手根伸筋の起始部が肘外側で障害されて腱の変性が生じると考えられている。
■治療
- 患部の安静。(健側の手をよく使う。)
- 手関節伸展動作を避けるために、重量物を持つときは前腕伸筋群起始部に負荷がかからないように、手のひらを上に向けて(手関節回外位)持ち上げること。
- テニスエルボーバンドの装着。
- 前腕伸筋群のストレッチ。
石灰沈着性腱板炎
■症状
夜間の突然の激痛から始まり、肩の関節拘縮に移行することが多い。
レントゲン又は超音波画像で、石灰を確認することができる。
石灰は、殆ど白血球の貪食作用によって自然に吸収され、無くなる。
40代~50代の女性に多い。
■原因
腱板(棘上筋、棘下筋)などに石灰(リン酸カルシウム結晶)が沈着して炎症を起こす。
この石灰は、最初はミルク状で次第に硬くなり、膨らんで腱板から滑液包内に破れ出ると激痛を伴う。
なぜ石灰が沈着するかは不明。
野球肘
投球動作の繰り返しによって肘関節に生じる疼痛性障害の総称。
繰り返しボールを投げることによって肘への負荷が過剰となることが原因。
肘の内側で靭帯、腱、軟骨が痛み(内側型野球肘)、肘の外側で骨同士がぶつかって、骨、軟骨が剥がれたり痛んだりする。(外側型野球肘)
また、肘の後方でも骨、軟骨が痛む。(後方型野球肘) があり、約90%以上が内側に起こる。
発生の時期では二種類あり
・発育型野球肘 : 成長途上の骨端を中心とする骨軟骨の障害
・成人型野球肘 : 成長完了後の関節軟骨や筋腱付着部の障害
に分けられる。
●内側型野球肘(上腕骨内側上顆炎)
■原因
投球動作では、加速期に腕が前方に振り出される際に肘に強い外反ストレスが働き、さらにその後のボールリリースからフォロースルー期には手首が背屈から掌屈に、前腕は回内するため、屈筋・回内筋の付着部である上腕骨内側上顆に牽引力が働く。この動作の繰り返しにより、内側側副靭帯損傷、回内・屈筋群筋筋膜炎、内側上顆骨端核障害や内側側副靭帯の牽引による剥離骨折などが起こる。
■症状
内側上顆部の疼痛、腫大、圧痛、軽度の肘伸展制限、硬結。
1度
痛み発生から約二週間、腫脹、圧痛は軽微で、抵抗下での手関節の自動的屈曲では疼痛が増強、X線上には変化がない。
2度
腫脹や圧痛が著明、手関節の他動的背屈または、抵抗下での自動的屈曲により疼痛増強、X線上に変化が見られるもの。
3度
腫脹はびまん性で患部は腫大し、圧痛は著明で運動制限を訴え、他動的運動、抵抗下での自動的屈曲は疼痛のため不能を認め、X線上に骨端軟骨層の拡大、関節遊離体(関節鼠)など明らかに変化を認める。
内側側副靭帯損傷では、投球時の肘関節内側痛、肘間節の内側に圧痛があり、外反ストレステストで陽性反応がでる。テークバックからの加速期に痛みが起こり、日常生活では痛みは無症状の事が殆どだが、重症例では日常生活の不安定性や痛みが出現し、不安定性により尺骨神経が傷害(肘部菅症候群)され、痺れや感覚障害を生じることもある。
●外側型野球肘(上腕骨小頭離断性骨軟骨炎)
■原因
小学校高学年から中学校低学年に初発することが多い、野球肘外側型障害の代表的なものであり、繰り返す投球動作における外反ストレスにより、上腕骨小頭の骨軟骨が変性、壊死を生じるもので、病名に「炎」とあるが実際には炎症性の疾患ではない。
投球動作の加速期における外反ストレスによって、腕橈関節と呼ばれる肘関節の外側に圧迫力が働き、さらにフォロースルー期で関節面に捻りの力も働く。このストレスの繰り返しにより生じるのが外側型野球肘であり、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎、橈骨頭肥大、橈骨頭障害などがある。離断性骨軟骨炎には透亮期、分離期、遊離期に分類される。
■症状
上腕骨小頭部の圧痛。肘関節の運動時痛や可動域制限が主な症状で、症状が進行すると、病巣部の骨軟骨片が遊離して関節内遊離体(関節ねずみ)になり、引っ掛かり感やロッキングを来し、滑膜炎と呼ばれる関節内の炎症を起こすこともある。
透亮期:
X線上で骨の影が不鮮明になった状態、上腕骨小頭に壊死層が見られる。
投球時に肘の内側や外側が痛み、痛みの場所に圧痛がある。投球を休めば痛みはなくなる。
分離期:
壊死した骨と正常な骨に分離線が現れる。投球のたびに肘に痛みが出て肘の曲がりや伸びが悪くなる。手術をしなければならない。
遊離期:
壊死した骨が離れ、関節の中に落ちた状態。関節内に落ちた遊離体が、関節の間に挟まって突然肘が動かなくなり、強い痛みがでる。手術をしなければならない。
分離期、遊離期まで症状が進行すると、投球動作のスポーツが十分にできなくなるため、早期発見、早期治療が重要である。
●後方型野球肘
■原因
投球の加速期における外反ストレスと減速期からフォロースルー期にいたる肘関節伸展強制によって、上腕三頭筋の遠心性収縮により上腕三頭筋腱に炎症がおきる。肘頭は上腕骨の後方にある肘頭窩に衝突するようなストレスを受け、この動作の繰り返しにより、肘頭疲労骨折や骨棘形成、肘頭骨端線閉鎖遅延などが起こる。
■症状
肘後方の肘頭骨端線部に圧痛が見られ、加速期からフォロースルー期にかけて疼痛が みられる。肘の伸展制限がみられることが多い。
肘頭疲労骨折では、自発痛、圧痛著明、骨折部の痛み、限局性圧痛は著明である。
腫脹は骨折部中心にみられる。骨折部が離開を示す場合は、その裂隙部に横走する陥凹を指頭によって触知できる。骨片転移がある場合は、近位骨片が後上方に突出変形しているのが皮膚上から認められる。合併症として尺骨神経を障害する場合がある。
■予防・治療
予防としては投球数の制限および早期発見と、治療期間中の投球禁止が重要である。
少年野球における肘の障害は大きな問題であり、これらに対して連盟も取り組んでおり、変化球を投げた場合にはストライクとならない、またはプレーを無効としたり、試合数の限度を1日2試合までとする制限を設けている。
日本臨床スポーツ医学会の提言。
投球制限
小学生は 1日50球/週200球以下
中学生は 1日70球/週350球以下
高校生は 1日100球/週500球以下
投球禁止
炎症と関節腫脹が消退するまで投球を禁止する。その後、筋力増強、ストレッチ、投球フォームの矯正を行う。
内側側副靭帯の断裂や剥離骨折に対しては靭帯再建術を行う。
急性期を過ぎたら温熱療法を行う。
離断性骨軟骨炎の透亮期では投球禁止期間は6ヶ月から1年を要することが多い。
離断性骨軟骨炎で手術が必要な場合は、分離期では骨釘移植、遊離期では骨軟骨移植術を行う。
胸郭出口症候群(TOS)
■症状
なで肩の20代から30代の女性に多い。首や肩、肩甲骨周辺の凝り感や痛み、腕や肩がだるくなったり、しびれたりすることがある。
腕を上げると手の血流が途絶えて血行障害が生じて、掌が白くなり、しびれを感じることがある。
熱感・冷感、脱力感なども感じることがある。ひどくなると、耳鳴りやふらつき感、後頭部から耳、口のあたりのしびれ感にまで及ぶことがある。
手指の運動障害や握力低下のある場合、手内筋の萎縮により手の甲の骨の間がへこみ、小指球筋がやせてくる。
モーレーテスト陽性 アドソンテスト陽性 ライトテスト陽性 アレンテスト陽性 エデンテスト陽性
3分間挙上負荷テスト(ルーステスト)陽性
■原因
鎖骨周辺で腕神経叢や鎖骨下動脈、鎖骨下静脈を圧迫する原因がいくつかあり、これらをまとめて、胸郭出口症候群と言う。
前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫されると斜角筋症候群。
鎖骨と第一肋骨の間で圧迫されると肋鎖症候群。
小胸筋を通る時に圧迫されると過外転症候群。
頚椎にある余分な肋骨に圧迫されると頚肋症候群という。
胸郭出口症候群には牽引型と圧迫型に細分され、牽引型(ストレッチ型)はなで肩の女性に多い。肩甲帯が下がっていると、常に腕神経叢が牽引された状態になる。
圧迫型は筋肉質の男性でいかり肩に多い。
胸郭出口症候群の患者の8割~9割りが牽引型と言われている。
また、頚の形状がストレートネックになっていると、肩がなで肩になりやすい。レントゲンで正面から見ると、正常な場合は鎖骨がV字に写って見えるが、なで肩の場合鎖骨は水平に見え、首も正常より長く写る。
第7頸椎に肋骨がある場合があり、それを頚肋といい、頚肋は胸郭出口症候群の原因の一つとされる。
鎖骨上窩の頸椎寄りのところの触診で、骨性の隆起を触れば頸肋の可能性が高い。
■治療
なで肩、筋緊張、ストレートネック、不良姿勢などは、猫背(肩の前方への巻き込み)になっていることが多いため、猫背を改善させ、神経と血管の通り道を確保してやる必要がある。
痛みが軽くなったら、筋力トレーニングなどの運動をして、首から肩にかけての筋肉を鍛える。そうすることで、鎖骨と肋骨の間が広がり、痛みが出にくくなる。
上肢やつけ根の肩甲帯を吊り上げている僧帽筋や肩甲挙筋の強化運動訓練を行ない、安静時も肩を少しすくめたような肢位を意識する。
首や肩に負担をかけない姿勢を心がける。あごを引いて、背すじを伸ばす。
そうすると頸椎が自然なカーブを描くので負担が軽くなる。
長時間同じ姿勢を続けない。1時間に1回は休憩をとって、体を動かす。
肩や首、腕を回したり、背を伸ばす。
症状を悪化させる上肢を挙上した位置での仕事や、重量物を持ち上げるような運動や労働、リュックサックで重いものを担ぐようなことを避ける。
十分な睡眠をとり、疲れをためない。
首や肩の冷えに注意する。お風呂などで温めて血行を良くする。