症例
顔面神経麻痺
顔面神経に支配されている片側の顔面筋が麻痺して動かなくなる状態。
男女差、年齢に関係なく、急性あるいは亜急性に発症する。
三叉神経痛と混同されることがあるが、痛みは伴わない。
中枢性か末梢性かを判断することが重要。
・中枢性顔面神経麻痺 脳腫瘍、脳梗塞等の合併症 顔面神経麻痺の5%
・末梢性顔面神経麻痺 ベル麻痺、ラムゼイハント症候群等 ほとんどの顔面神経麻痺
●ベル麻痺
60%~70%の顔面神経麻痺
完全回復86%、不全回復14%と言われている。
予後は良好で、発症してすぐに治療を開始すれば数ヶ月の間に90%以上治癒する。
■症状
1、 額にシワが寄せられない。中枢性はシワ寄せができる。
2、 目を閉じられない。涙の分泌も低下して目を涙で潤せないので、 ドライアイになる。
3、 口角が下がる。口角を外側に広げイーと言えない。
4、 口をとがらせて口笛がふけない。
5、 麻痺側の鼻唇溝が浅くなる。
6、 唾液の量が減る。
7、 麻痺側の耳が過敏になり、音が大きく響く。
8、 舌前方3分の2の味覚が障害される。
後遺症
・病的共同運動 (ある部分を動かそうとすると別の部分が一緒に動く)
・顔のこわばり
・ワニの涙 (食事の際に涙がでてくる)
・顔面のけいれん
■原因
原因は不明。
単純ヘルペスウィルス
寒冷暴露等によって顔面神経管で顔面神経が
腫れ、圧迫があると麻痺が起こると考えられている。
●ラムゼイハント症候群
10%~15%の顔面神経麻痺 完治率は60% ベル麻痺に比べて麻痺の程度が重症で後遺症も残りやすい。
■症状
麻痺の症状の前に片方の外耳道、耳介、口腔内に帯状疱疹ができることが
ある。耳鳴り、難聴、眩暈が合併していることがある。他、ベル麻痺と同じ症状。
■原因
水痘帯状疱疹ウィルス
■治療
早期治療の開始が重要。発症して2週間を過ぎると手遅れ。
副腎皮質ステロイド、ビタミンB12、抗ヘルペスウィルス薬等の投与。
顔面を冷やさない。血流を良くするために温める。
麻痺した筋肉をゆっくりとマッサージ。
(病的共同運動の発生するリスクを避けるため、発症後4か月以内はやらない。)
麻痺した筋肉を意識的に動かす。(バイオフィールドバック)
早期にはあまり強くやりすぎない。
低周波刺激のリハビリは後遺症(病的共同運動)が起こりやすくなると
言われている。
肉離れ
■症状
筋断裂の中心部に圧痛、重症の場合は筋断裂部のへこみを指で触れることもある。
筋肉をストレッチしたときの痛み。損傷が大きい場合は皮下出血も見られる。
内出血を伴う場合、コンパートメント症候群になる場合もある。
受傷時に打撃感を感じ、同時に断裂音を自覚する事が多い。
・1度(軽度)
筋肉の組織が少し伸びた状態で、若干の痛みは出ているが運動するに当たって支障はない。歩行も問題ない。
・ 2度(中度)
筋肉繊維が断裂してしまった状態。
我慢すれば運動を続けることができる。ただし、皮下出血が起こり歩行するのにも障害は起きる。
・ 3度(重度)
完全に筋肉が断裂してしまった状態。
圧痛が出ていて陥没も見られる。歩行は困難になり、運動を続けることは不可能。
■原因
スポーツなどで筋肉に急に強い収縮力が働いた時、自分の筋力に耐え切れなくなって筋組織が断裂する。筋肉の疲労が発生要因になることも多い。ハムストリングスが一番多く、次いで腓腹筋によく発生し、大腿直筋、内転筋の順に多い。下腿三頭筋内側頭の肉離れはテニスレッグと呼ばれる。大腿四頭筋の肉離れは、骨化性筋炎に移行する場合もある。
大腿部の肉離れは20代前後の若年層に多く発生し、ふくらはぎの肉離れは、各年齢にまんべんなく発生する。
完全に回復してない状態で運動を再開すると再断裂を起こす可能性も高く、肉離れは再発性の高い疾患である。
■診断
・MRI、超音波画像診断
■治療
保存的療法が一般的。急性期にはRICE処置。内出血を伴う場合コンパートメント症候群になる可能性も考慮し、筋部の圧痛や下腿の痺れ感、脈の拍動が感じない時は注意を要する。3~4日局所を冷却し、包帯による圧迫、固定を行う。
その後は温熱療法や徐々に関節自動運動を開始し、圧迫包帯を除去していき、しばらくの間ストレッチングを行ったのち、軽いランニングから運動を開始する。
・ ハムストリングの治療
できる限り膝を伸ばす動作を避ける。
固定用の装具の利用も検討するケースもある。
レッグカールを自重のみで行い、徐々にウエイトを用いながら、筋力の低下を防止していく。組織が接着するまではハムストリングのストレッチは実施してはいけない。
・ ふくらはぎの治療
他の部位の肉離れに比較しても回復に時間がかかるケースが多い。
地面との接地の際に患部を刺激してしまうことが大きな原因である。足関節に関連する筋肉である為、治療期間を少しでも短縮したいと希望する場合は、固定をしっかりする必要がある。地面への接地を避ける為に松葉杖など積極的に利用することが大事である。カーフレイズトレーニングが有効。
・ 大腿直筋の治療
治療期間中はできる限り地面との接地を避け、松葉杖などの装具を利用しながら患部にかかる負荷を軽減するよう心がける。また、治療期間中は運動量が減少するため、体重が増加することによって患部に負担をかけることを防ぐ。
受傷からある程度の期間が経過したら、その後は温熱療法を中心に、患部を温めながら治療し、レッグエクステンッションなどの太ももの伸展動作を自重で開始し、徐々に軽いジョギングなどの運動に切り替えていく。
断裂部分の症状の度合いにもよるが、太ももの肉離れの治療期間は2週間程度で、3~4週間程度で軽いジョギングが行える程度まで回復していくのが通常である。
■予防
・ 筋力や筋肉の柔軟性の低下、ウォーミングアップ不足を改善するために、運動前にしっかりとストレッチを行う。
・ 運動中に十分な水分補給を行うことで、筋肉の収縮性があがり、運動時に発生した熱を抑え、氷冷する効果もあるので、水分補強をこまめに行う。
モートン病
■症状
歩行時などに、足の裏から指先にかけて鋭い痛みや痺れが出現する。時に灼熱感や感覚異常も出現し、特に中指、薬指の付け根付近に痛みや痺れが出現しやすい。足趾の背屈やつま先立ちすると痛みが増強する。中足骨頭間に圧痛やチネル徴候があり、腫脹や腫瘤ができる場合もある。
両サイドから足に力を加える誘発テストを行うと、痛みや痺れが出現する。偽神経腫が大きい場合はMRIやエコーでも診断できる。
20~50代の女性に多い。裸足や足先の広い靴に履き替えると傷みや痺れが軽減される。
■原因
合わない靴や足先が狭い靴、ハイヒールなどで長時間つまさき立ちをするような姿勢が続くと発生しやすい。足底神経の枝、総底側趾神経が圧迫されて起こる絞扼神経障害である。
歩行により底側趾神経が地面と深横中足靭帯により繰り返し擦られることにより変性肥厚して偽神経腫を形成する。また、底側趾神経が中足骨と中足骨に挟まれ圧迫がされておこる。
半数以上が第三、第四趾間に生じ、次に第二、第三趾間が発症しやすい。第三、第四趾間では、外側足底神経と内側足底神経が吻合して趾神経になるため、太く可動性が少なく障害されやすい。
また、前足部の横アーチの低下によって神経が圧迫されることもあり、足の構造自体がつま先の方に行くにつれて、アーチが平坦になっており、環境としても圧迫を受けやすくなっている。
■治療
ほとんどの場合、保存療法で回復する。使用している靴をゆとりのある靴に履き替え、圧迫を軽減するために足底板療法やテーピングを行う。また、崩れた横アーチの再構築のため、長趾屈筋、長腓骨筋、長短母趾屈筋、母趾内転筋の筋肉をタオルギャザーなどのトレーニングを行って鍛える。
マッサージで患部の筋肉を緩め、圧迫状態を解除し、温熱療法で患部の循環をよくするのも効果的である。
保存療法で改善が見られない場合は手術療法を検討する。手術は、神経を圧迫する靭帯を切離して、癒着している神経を切除することが一般的であり、偽神経腫を摘出する場合もある。
ヘバーデン結節
更年期をすぎた女性に多発する手指のDIP関節の変形性関節症である。
■症状
DIP関節の肥大、変形を生じ、両側性で、かつ、多発性に出現し、同部の腫脹、疼痛を訴える。主として末節骨基底部の背側が隆起突出する。
物を握ったり、つまんだりする動作で痛みが出現し、患部が何かにぶつかったりすると、激しい痛みが出現する。慢性関節リウマチではDIP関節を侵すことはまれである。
結節が起こりやすい順番として、示指が一番多く、中指、小指、環指、母指の順に多いと言われている。
女性の罹患頻度が男性より10倍ほど高い。
急性期に発赤などの炎症症状を伴う場合や、粘液嚢腫(ミューカシスト)を伴う場合がある。この粘液嚢腫の中は、ガングリオンと同じ成分であり、ガングリオンの一種といわれている。慢性期ではDIP関節の屈曲変形が出現する。
手指PIP関節の変形性関節症はブシャール結節といい、ヘバーデン結節の20%に本症を合併する。
X線写真で関節の隙間が狭くなったり、骨棘があったり、関節が壊れていれば、ヘバーデン結節と診断できる。血液検査では異常を認めない。
■原因
変形が起こる原因は不明だが、更年期を過ぎた女性のホルモンの変調も関係していると言われている。
手をよく使う人になりやすい傾向がある。
■治療と予防
保存的療法として、局所の安静、局所のテーピング。慢性期は患部を冷やさず、温熱療法や運動療法を行う。
ばね指(弾撥指)
■症状
成人例では中手指節間〈MP〉関節掌側に腫瘤を触れ、圧痛があり、指の自動運動、他動運動でバネ現象を認め同時に痛みがある。軽度の場合は手指のこわばりを訴え、重症例では安静時にも痛みがあったり、発赤があったり、関節の運動ができない状態になることもある。(locked thumb)
特に朝が顕著。例えば指の屈曲が困難になったり、指をのばそうとすると引っかかりを感じたり、ひどくなると指が曲がったまま伸びないなどのバネ現象が起こる。
どの指にもおこる可能性はあるが、 特に右の母指がもっとも多く、次に中指、環指(薬指)に多く見られる。
小児では、1~2歳が発症しやすく、母指中手指節間(MP)関節掌側に軟骨のような硬い腫瘤を触れるが、痛み、圧痛はない。
親指での発生がほとんどで、母指指節間(IP)関節が曲がったままで、他動的に伸ばすとバネ現象がみられる。また指節間関節がロックされた状態のこともある。8割ぐらいの確率で6才ぐらいまでに症状が無くなる。よほどのことがない限り、手術の必要性もない。
■原因
屈筋腱と靭帯性腱鞘との間に炎症(腱鞘炎)が起こると刺激のために腱が厚く硬くなったり、腱鞘が厚くなって、結果として腱の動きが悪くなる。
手の酷使でも発生するが、主に妊娠時、産後や更年期の女性が女性ホルモンバランスが乱れることにより、起こることが多い。また、関節リウマチ、糖尿病、透析が原因で発生することもある。
小児の場合は、先天性で靭帯性腱鞘の入り口で長母指屈筋腱がこぶのように大きくなってバネ現象が引き起こされると考えられている。
■治療
できるだけ、患部の安静を保ち刺激を少なくし、症状によっては、固定材料を当てて固定することもある。
ばね指は、一度なってしまうと完治するまでに長い時間がかかることが多い。手指は、どうしても生活しながらの治療になるため、安静にしにくく治りにくい。
変形性膝関節症(膝OA)
■症状
膝関節の痛みと腫脹(滑膜の肥厚による)。膝の内側に多い。
膝蓋上方に水腫が溜まる。
関節軟骨が磨り減り関節の隙間は狭くなり、膝関節の骨の変性が始まり骨棘ができる。
膝の内側裂隙に圧痛がある。高齢者の女性に多い。
Kellgren-Lawrence分類
グレード0:正常
グレード1:関節裂隙狭小化の疑い。軽度の骨棘形成
グレード2:骨棘形成と軽度の関節裂隙狭小化
グレード3:中等度,複数の骨棘形成,関節裂隙狭小化,軟骨下骨硬化
グレード4:大きな骨棘形成,高度の関節裂隙狭小化,高度の軟骨下骨硬化
症状においての分類
- 初期:動作開始時痛。
- 中期:歩行時や階段の上り下りで痛む。
- 末期:夜間痛、膝関節の可動域制限、軋轢音がある。
■原因
- 老化や体重による関節軟骨の変性。
- ヒアルロン酸(関節包の中で潤滑液として働き、軟骨の栄養分)の減少。
- 半月板損傷や膝の手術後の二次性変形性膝関節症。
- 遺伝的要因。
- O脚等の足の変形。
■予防
- 大腿四頭筋を鍛える。
- 正座を避ける。
- 体重を減らす。
- 温めて血行を良くする。
- 杖を突いたり、水泳をする。
- 痛みが強い場合は安静にし、痛みがひいてくれば痛みが出ない程度に徐々に運動を行う。
タナ障害(滑膜ヒダ障害)
■症状
膝蓋骨の内側に引っかかるような感じがあり、膝を動かすときに痛みがある。
膝の屈伸でコリッと音がする。
膝蓋骨の内側のやや下方に索状物と圧痛が認められる。思春期から青年期に多い。
■原因
胎生期に関節を覆う袋(関節包)が造られていく過程で一時的にできる「滑膜ひだ」が、遺残としてその後も存在する状態で、膝関節の関節包の内側にもともと約50%の人に「滑膜ひだ」が存在する。
このひだが関節に挟み込まれて炎症をおこし痛みを生じる。
■治療
- 大腿四頭筋の強化とストレッチ。
- ひどい場合は、稀に関節鏡視下で手術する。
- 膝を温める。
足関節捻挫
捻挫とは関節が捻られ、骨以外の軟部組織が多かれ少なかれ断裂した状態。
レントゲンで骨折や脱臼のない関節の外傷はすべて捻挫と診断される。
足関節に見られる全外傷のうち75%をしめられるとされ、発生頻度の高い疾患の1つとされている。
殆どが保存的療法で改善。
■捻挫の分類
●第1度:
筋・腱単位のわずかな損傷、単に引き伸ばされた程度のもので、後に影響を残すことは少ない、圧痛、軽度の腫脹、筋の場合、硬結などは認められない。関節包は痛んでいない。
- 荷重かけられる。
- 皮下出血なし。
- 回復期間:1週間以内
- 保存療法
●第2度:
筋・腱単位の部分損傷(断裂)である。圧痛、腫脹、筋の場合は圧痛、硬結を認める。経度の関節の不安定性がある。関節包に損傷あり。
- 荷重は痛みを伴う。皮下出血は伴う事が多い。
- 回復期間:約3週間
- 保存療法
●第3度:
筋・腱単位の完全損傷(断裂)である。筋の場合、局所の硬結が著しい。腫脹、圧痛、疼痛が強い。関節の不安定性が強くなる。関節包損傷あり。
- 加重不可。 皮下出血伴う。
- 回復期間:6~12週
- 保存療法 又は 手術療法
■症状
足関節の腫脹、損傷部位の圧痛、受傷時と同じ足関節の方向への他動運動で痛みがある。
足関節(足首)捻挫のほとんどは、足関節を内側に捻って起こす外側靭帯の損傷が多い。
中でも前距腓靱帯を損傷する事が最も多い。次いで、踵腓靭帯、後距腓靭帯の損傷が多い。
前距腓靭帯の断裂の場合、前方引き出しテスト陽性(5mm以上の動揺)。
10歳以下の小児の場合は、靭帯損傷はほとんどなく腓骨下端の裂離骨折となる。
三角靭帯は強力な靭帯であるため、損傷したときは重度となりやすい。
他には前頸腓靭帯、後頸腓靭帯、長短腓骨筋、二分靭帯の損傷があり、二分靭帯の損傷には踵骨前方突起の剥離骨折を伴うこともあるが、単なる足関節捻挫と間違われていることがよくある。
この靭帯のすぐ外側に痛みが強い場合は、短腓骨筋の牽引による第5中足骨基部剥離骨折を起こしていることがある。
外反捻挫の場合には、三角靭帯を損傷することが多い。
内反捻挫が多い理由:
- 内側の三角靭帯が、外側の靭帯に比べて強度が大きい。
- 内果の位置が外果に比べ、近位に位置しており内側に捻りにくい構造となっている。
- 距骨滑車前方に比べ後方が狭いことで、底屈で足関節の遊びが大きくなり不安定性がでる。
- 腓骨筋が底屈位で機能しづらく不安定性がでる。
■治療
- RICE処置を行う。
REST=安静
ICE=アイシング
COMPRESSION=圧迫
ELEVATION=挙上
- 3度の損傷に対して、かつては手術治療が積極的に行われることが多かったが、最近は保存治療をすることが増えてきた。
- 足関節の靭帯は断裂しても修復されるが、きちんと固定していないと靭帯が緩んだまま固まってしまい足関節不安定症につながる。緩みが重度の場合や激しいスポーツをする場合は手術を行う場合もある。